要旨

Old TimeからOld Time Ethnicへ―あるクレズマー・アーキヴィストを例に考える

黒田晴之(松山大学)


 本報告は、クレズマーのリヴァイヴァルを担った関係者のうち、ヘンリー・サポズニク氏(1953-)の活動にとくに注目する。サポズニク氏は、クレズマー・バンドを結成するのと並行して、この音楽のアーカイヴを初めて構築し、旧録の復刻や楽譜起こしに積極的に取り組み、ワークショップなども実施してきたが、音楽家としてのキャリアは、リヴァイヴァル時のフォークとの出会いに遡る。

 ユダヤ人を含めた新移民の音楽は、ジャズやフォークの定期刊行誌には、クレズマーがリヴァイヴァルする1970年代終わりまで、基本的には取り上げられることがなかったが、1980年代からは、本格的な研究成果が徐々に出はじめる。本報告ではユダヤ人および東欧出身者などによる新移民の音楽を、移民が共同体の内外で、ダンスなど娯楽の場を提供するために演奏した「ポルカ的なもの」と捉え、さらにはその視点から逆に、フォーク音楽の規範を定めた人物たちの背景を明らかにした。このフォーク音楽の規範が一時期までは、「ポルカ的なもの」の存在を不可視化してきた。

 サポズニク氏など、オールド・タイムやグルーグラスから出発したのち、クレズマーに転じたユダヤ人音楽関係者は、「アメリカ」の集団的記憶からの影響と、「アメリカのユダヤ人」のそれとがオーヴァーラップしている。この関係性を「ユダヤ人のアメリカニズム」として、さらに精緻に検討していきたい。

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